ベトナムLGBT俳優Huỳnh Lập氏が主演監督を務める「CẬU ÚT CẬU CON CÚC」

ベトナムのエンターテインメント界において、今や「正月の顔」とも言える存在になったのが、マルチな才能を発揮するクリエイター、フイン・ラップ(Huỳnh Lập)氏です。彼が主演・監督を務める大ヒットシリーズ「CẬU ÚT CẬU CON CÚC(末っ子の叔父さんとクックちゃん)」は、単なるコメディの枠を超え、現代ベトナムにおける「多様性のあり方」を鮮やかに提示しています。


「自分らしく生きる」を体現する、フイン・ラップ

フイン・ラップ氏は、俳優、監督、脚本家としてベトナムで絶大な人気を誇ります。彼は自身がLGBTQ+の一員であることをオープンにしており、その堂々とした振る舞いは、多くの若者にとって「自分らしく生きる」ための道標、いわばゲイアイコンとしての光を放っています。

このインタビューでは、フイン・ラップ氏が自身の生い立ちや批判への向き合い方、女形へのこだわりを語っています。

彼の作品の根底にあるのは、強烈な個性と社会への深い洞察です。自らのアイデンティティを隠すことなく、エンターテインメントの力で社会を明るく照らす彼の姿勢は、保守的な価値観も残るベトナム社会に新しい風を吹き込み続けています。


ドラマが描く「当たり前」の多様性

シリーズ『CẬU ÚT CẬU CON CÚC』の最大の特徴は、フイン・ラップ演じる「クックちゃん」という女装キャラクターが、ごく自然に家族やコミュニティの中に存在している点です。

  • 「触れない」という究極の肯定 劇中では、彼女(彼)がなぜ女装しているのか、といった説明や特別視するような演出は、ほぼありません。周囲もそれに対して驚いたり、差別的な言葉を投げたりすることなく、一人の愛すべき親戚として接します。

  • 「ありのまま」が受け入れられた世界 ここに描かれているのは、特別な配慮を必要とする社会ではなく、「ありのままの自分」が最初からそこにあるのが当然という世界観です。この「あえて触れない」演出こそが、今のベトナムにおける理想的な共生の形を象徴しています。


「Ngôi Sao Xanh」受賞、シリーズ化の成功

この作品は単なるネット上の流行に留まらず、ベトナムで最も権威ある映画賞の一つ「Ngôi Sao Xanh(ブルースター賞)」において、出演者が最優秀俳優賞を受賞するなど、批評家からも高い評価を受けています。

2022年から2026年まで毎年制作されるこのシリーズは、テト(旧正月)の恒例行事として定着しました。笑いと感動の絶妙なバランス、そして映画並みのクオリティが、幅広い層の支持を集め、ベトナムにおけるダイバーシティの浸透を後押ししています。

2022年:「はじまりの再会」

パンデミック明けのテトに公開。娘の帰りを待つ「ハイ叔母さん」のエピソードを中心に、ベトナム南部の素朴な正月の風景と家族の絆を描き、シリーズ大ヒットの足がかりを築きました。

2023年:「キャラクターの確立」

コメディ要素が大幅に強化された年。正月の準備に奔走する家族の中で、強烈な個性を放つ「クックちゃん」のキャラクターが確立され、「笑いの中に涙あり」というシリーズ独自の黄金比が完成しました。

2024年:「現代のリアルと共感」

上映時間2時間を超える長編へと進化。経済的苦境や親戚間の見栄など、現代のベトナム人がテトに感じる「リアルなストレス」をコメディとして昇華し、YouTubeの急上昇ランキングを独占しました。

2025年:「伝統と新世代の融合」

映画並みの圧倒的な映像クオリティを実現。伝統的なテトの価値観と、Z世代が持つ新しい感性との衝突をテーマに据え、全世代が楽しめるテト・コンテンツとしての地位を不動のものにしました。

2026年:「家族の転換点と新たな命」

40名を超える豪華キャストが集結した最新作。結婚・出産を経て「親」になった主人公たちの育児の奮闘や、投資詐欺といった現代的な社会問題を取り入れ、人生の新たなステージを描いています。


LGBTという言葉が必要なくなる未来

この作品を観ていると、ふと感じることがあります。「LGBTが完全に受け入れられた社会には、もはや “LGBT” という言葉自体が存在しないのではないか?」ということです。

フイン・ラップ氏が描く世界には、ラベリング(区分け)はありません。そこにあるのは、ただ騒々しくも温かい、一人ひとりの人間模様です。彼の豪快で堂々とした存在感は、多様性を認めることがいかに社会を豊かにするかを、私たちに教えてくれます。

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